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16●大丈夫、と信じることがアクエリアス時代を、生きるコツ


 象のエレナ。アクエリアス時代の話なら、まずエレナの話をさせてください。
 ケニアのダフニーさんという女性がいます。密猟で母を失った小象を育て、野生に還す活動を30年続けている人です。エレナはそのダフニーさんのパートナー。ダフニーさんの手元を離れた小象を育て野生生活のノウハウを教える養母役なのです。ふだんはダフニーさんが運営するナイロビの孤児院から400kmほど離れた、広大なツアボ国立公園で、野生の状態で棲んでいます。30歳ちょっと、の女ざかり。ダフニーさんが初めて野生に還すのに成功した象でもあります。
 私はダフニーさんが半年ぶりにエレナと再会するというので同行しました。彼女の活動を、映画「地球交響曲」におさめるためです。
 エレナは野生の象です。まさか電報を打って、今から行くよ、などと知らせるわけにはいきません。でも、わかっているんですよね。エレナはダフニーさんの前に必ず姿を現し、その長い鼻でダフニーさんを抱きしめるのです。
 そんな不思議で感動的なシーンを私は10kmほど離れて撮影していました。そうしたら今度はこっちにエレナが向ってきて、10人のスタッフに中に紛れていた初対面の私を、やはり鼻で抱いてくれたのです。
 もうずっと、エレナには会いたいと思っていました。そして、ああ会えて良かった、と思ったそのときの抱擁。エレナはほんと、何もかもわかっているのですね。
 人間がエレナのようなことをすれば、テレパシー能力だ!ということになるのでしょう。でも象にとっては自然のなかで生きていくコミュニケーションの、ひとつの方法でしかないのです。
 象の脳。それは人類とほぼ同様の大きさと構造を持ちながら、人類とは別の叡智をはたらかせているようです。少なくとも人類のように科学や技術を生み出し、外部をコントロールしようとする攻撃型の叡智ではありません。逆に、自然をすべて受け入れ身をゆだねる、いわば受容の叡智です。さらにいえば、コンピューターなどでは捉えられない、複雑で繊細な自然のディテールを敏感に感知し、生き方を見つけていく。人類よりもっとスケールが大きく、もっと地球本質に根ざした叡智をはたらかせているんですね。
 人類だって、太古の昔は受容の叡智のもとで生きていたはずです。しかし科学や技術の力により豊かさや便利さ、安全性などを獲得していく過程で、それが見えなく、いや、見ようとしなくなっていってしまったのです。
 私たちは、気づいていないことが多すぎます。動植物から学ぶべきことがたくさんある。
 地球上の全生命が持っている、受容の叡智。それを一人一人の人間も持っていることに"気づき"、そして地球の未来のために使っていく。
 アクエリアス時代とは、そういう時代なんじゃないかな、私は思います。
 そして人類はすでに''気づき''始めています。

あなたの想いが現実や未来を創るのだと信じなさい
 私が映像の仕事を通して出会う人たち。彼らはみんなレンズに向かって、自分自身のことや自分の体験を語ります。ポール・スポング、野口三千三、ライアル・ワトソン、エンヤ……内容はまちまちです。でも伝わってくる「なにか」。それが非常に共通しています。
 同じ、''気づき''をしているのですね。
 たとえばシュワイカートのように、宇宙で特別な体験をして気づいた、という人もいます。それを普通の人は、私は宇宙に行ってないからわからない、と言うこともできる。でも実は私たちも日常、UFOを目撃するといった具体的な体験ではなくても、理屈では説明できない不思議体験をたくさん見たり感じたりしているのです。エレナが私だけを抱いたことも、不思議といえば不思議ですよね。しかしそれを表に出すと「ちょっと変」などと思われちゃうから、いつの間にか心をガードしてしまう。ところが、シュワイカートはもちろん、文学者やアーティスト、はたまた正統派の科学者までもが「理屈に合わない不思議なことを感じても大丈夫だよ」と言い出した。これで普通の人々の心のガードもポコンとはずれやすくなっと思うんです。そして、いままで見ないでいたけれど、なくしたわけではなかった「なにか」に''気づく''人が増えてきたのです。
 かつては気づくために、苦しい修行を重ね、いわゆる「悟り」を開く、というプロセスが必要だったようです。でも今は、多くの普通の人々が、それを気軽に感じとれる。これはすごい、素晴らしいことになってきました。
 たしかに現在、地球は様々な危機をはらんでいます。世界が破滅に向かっている、そう脅かす予測もあります。このときやはり大切なのは、人類の意識の在り方だと思うんです。「大変だ、怖いぞ」と思っているか、「それでも大丈夫」と捉えるか。未来はそれだけでずいぶんと変わってくるはずです。「自由でありたい!」と国民が願った結果、ベルリンの壁は崩壊しました。心のエネルギーが集約するとどうなるのかをこの事実は教えてくれています。想いや想像力、つまり意識が現実と未来を創っていく。そこに''気づく''こともこれからの、大切です。
「あなた、べっぴんだと思いなさい。思ったら絶対べっぴんになれるから」
 宇野千代さんの言葉です。本当でしょ?
 だとしたら、地球の未来も「大丈夫」、とみんなが思えば、絶対「大丈夫」なのです。

「フラウ」‘91 12月24日号(月2刊)A4版変形 (株)講談社




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