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12●“宇宙人”ダイソン博士


フリーマン・ダイソン博士は、その並外れた頭脳も“宇宙人”だけれども、その顔もまた“宇宙人”と呼ぶのにふさわしい。トンガッタ耳、見開かれた眼・・・。それは、スピルバーグの映画に登場する宇宙人とソックリだ。
 私は’86年製作の「宇宙船とカヌー」で初めて出会い、’92年製作の「宇宙からの贈り物・
ボイジャー航海者たち」で再会した。
 そのダイソン博士が、全く新しいタイプの宇宙船のアイデアを話してくれた。それは機械というより“生き物”に近い。彼はその名を「アストロチキン」または「スペースバタフライ」と呼んでいる。見かけは“蝶”に似ている。
 博士の発送は、現在の“常識”からはるかにはずれているので、初めて聞くと、まるでSF映画の空想の産物のように聞こえる。しかし、実は厳密な計算に裏付けられており、テクノロジーの進歩によって実現が可能なものなのだ。
 さて、この「スペースバタフライ」だが、まず、重さはわずか1キロから2キロ。ボイジャーなど現在の宇宙船が2トン以上あるのに比べてケタ違いに軽い。
 卵のようなカプセルに入って地球から打ち上げられ、蝶がふ化するようにカラを破って外にでて巨大な羽を拡げる。その羽は、アルミ箔のような薄い膜で出来ており、太陽風を受け、それを推進力にして宇宙のあちこちを飛びまわる。
 太陽風の力は小さいが、抵抗がない真空の宇宙では、風を受けつづけることでスピードはどんどん増し、ボイジャーが9年かかって到達した天王星にわずか2年で到着する。
 さらに、「スペースバタフライ」はニワトリの脳ほどの小さな人工頭脳を持っていて、我々は地球からこの脳と無線交信する。この脳を働かせるのに使うエネルギーは、宇宙船の植物部分(背中辺りに生えている緑の葉)の光合成によって作り出す。
 この宇宙船には動物部分もある。筋肉でできた脚を持っていて、惑星や彗星に着陸する時やその上を歩き回って調査する時に使う。惑星と惑星の間を旅する途中、あちこちにある彗星に立ち寄って、植物部分や動物部分が生きてゆくのに必要な水分やミネラルを、ニワトリがエサをついばむように“食べて”補給してゆくのである。
 また、引力のある星に降りた場合、そこから離脱するにはどうしても科学燃料ロケットが必要になるが、このロケットも地球から持ってゆくのではなく“生き物”宇宙船が自分の生体の中でつくる。お手本は熱帯地方にいる昆虫、俗称“爆弾虫”(ゴミムシダマシ)である。体内に熱い液体を蓄え、外敵が来た時、それに向かってオシリから強烈な勢いで液体を噴射するその仕組みは、そのままロケットとして使用できる、というわけだ。
 つまり、ダイソン博士が考えたのは、植物と動物と昆虫が合体し、そのすべてが人工知能につながった21世紀の“生き物”宇宙船なのだ。
 話を聞きながら私はフト思った。これは我々の星“地球(ガイア)”のことではないか。植物・動物・昆虫が合体し、コンピューターとつながって宇宙を飛ぶ「スペースバタフライ」「アストロチキン」は、「宇宙船地球号」のミニチュアだったのだ。



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