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24●宇宙は記憶を持っている

 「宇宙は記憶を持っている」
ラズロー博士はきっぱりとそう言い切った。
  私達が日々なにげなく行っている営みの全てが、宇宙の虚空のいずこかに記憶され、時空を超えて未来の世代に大きな影響を与えてゆく、と言うのだ。この話を宗教家ではなく、世界的な物理学者で哲学者でもあるラズロー博士が語ってくれたので私も驚いた。
  ラズロー博士は、7人のノーベル平和賞受賞者を含む55人の科学者・芸術家・宗教家を集め地球の未来に様々な提言を行っている世界賢人会議ブダペストクラブの主宰者である。
  彼の話に依れば、全宇宙の70%以上を占めているいわゆる「真空」は、我々が考えているような、なにもないカラッポの空間ではなく、実は想像を絶する超高密度のエネルギーに満たされた「場」であり、その密度たるや、宇宙に存在する全ての物質(星々)の中にあるエネルギーの総和が、わずか1立方センチメートルの真空の中にある、というほどのものだそうだ。俄には信じ難い話だが、それが最新の量子物理学に依って明らかになってきている智見なのだそうだ。
  博士はこの宇宙の真空を「量子真空エネルギー場」と呼んでいる。我々人間を含めた全ての物質でできた存在は、この量子真空エネルギー場=巨大な静止した池のようなもの、の中に浮ぶ小さな点のようなものであり、我々が行う全ての営みが、この場=池に小さな波紋を起こし、その痕跡がその「場」に記憶=保存される。
  我々人間を含めた全ての存在は、この量子真空エネルギー場に依って時空を超えて繋がっているのだから、その場に記憶されている痕跡を読みとる方法を知ってさえいれば、過去に起こった全てのできごとを今現在に甦らせることができるはずだ、「過去は今現在もここにある」とラズロー博士は言う。
  この考え方は仏教に於ける「カルマ」や「因果応報」の考えに似ていて、我々日本人には比較的受け入れやすい。しかし博士は、あくまで「科学的」にこのことを説明しようとする。例えば、この地球に初めての生命が誕生して以来、わずか38億年の間に人間のような超複雑な生命体に進化する確率は、ごみの島に一陣の風が吹き、舞い上がった様々なごみが集まった瞬間にジャンボジェット機ができてしまう確率と同じぐらいに、現実にはあり得ないはずのことだ。
  しかし私達は現に今ここにいる。ということは、我々人間はただ偶然のつみ重ねに依って生れたのではなく、宇宙の真空に記憶されている過去の全ての生命の失敗や成功から情報を得て、極めて効率よく今のような姿に進化したのだ。
  私達は60兆個もの様々な細胞が人智を超えた見事なバランスを保つことに依って生きている。その細胞の一つ一つが過去の38億年の全ての生命の記憶を宿している。そして、今生きている私達の一瞬一瞬の営みが又、未来の全ての生命に受け継がれてゆくのだ。

デジタルTVガイド・連載『地球のかけら』 2005年1月号


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